黒川氏にとって定年延長問題はゲームだった?
黒川前東京高検検事長の定年延長問題は、黒川氏の賭けマージャンが文春にすっぱ抜かれる形でジエンドとなりました。私は黒川氏はビッグディーラー(大きな取引をする人)であることは分かっていましたが、この落ちは予想できませんでした。しかし、この落ちで分かったことがあります。それは黒川氏が定年延長問題をゲーム(ギャンブル)として楽しんでいたのではないかということです。
今回の定年延長は、菅官房長官が発案し、森法相が検察庁法の解釈変更を考え、菅官房長官が黒川氏(当時東京高検検事長)に辞退しないように言い含めたものと思われます。しかし、黒川氏にはこれは無理筋であり、国会や社会から大批判を浴びる、それ以上に検察庁内から激しい反発が出ることは分かっていたと思います。なのになぜこれを受けて長い間違法な東京高検検事長の職務を続けたのかが不思議でなりませんでした。しかし賭けマージャンで辞職したことによって、この謎が解けたような気がします。
黒川氏は違法な自らの定年延長問題をゲームとして楽しんでいたのです。普通ならこんなもの通りません。しかし時の権力者がこれで通すと言いているのです。黒川氏は政権内にいてこういうケースをたくさん見て来ています。甘利明議員のあっせん利得罪容疑や森友事件における佐川元財務相理財局長の公文書偽造罪容疑も普通なら起訴確実なのに不起訴となっています。これは黒川氏が法務省事務次官として官邸の意向を実現したと言われていますが、直接的な役割は果たしていないと思います。事務次官は検察庁のラインではなく、個別の事件にはタッチできないからです。検察庁のトップの検事総長は事務次官より格上です。ただし黒川氏が全く無関係だったわけではなく、官邸と検察幹部の間に立ち、交渉の場に立ち会うなどの役割をしていたと思われます。そして決裂しそうな双方の交渉に妥協点を提案してまとめていたと考えられます。
黒川氏の経歴を見ると、捜査の録音・録画の可視化と引き換えに通信傍受や盗聴・司法取引を獲得するなど大胆な取引(ディール)を行っています。通常検察官は自分の見立て(構想)通りに事件を処理しようとしますが、黒川氏の場合、相手が政府高官や政治家であり、それは不可能でした。その中で黒川氏にできたのは取引だったと思われます。それも負けて勝つような取引です。相手は百戦錬磨の強者ですから簡単には勝てません。勝つためには相手の心理を読み、弱みを掴み、播き餌をして、じっと落しどころを待つしかなかったと思われます。これはマージャンの役作りに似ています。
今回の定年延長問題もゲームと考えれば大変面白いのです。全く展開が見えません。何をそんな馬鹿なとなってあっけなくポシャル可能性もありますし、そのまま行って黒川氏が検事総長になることも考えられました。定年延長の違法性を解消するために検察庁法を改正するということが最初から計画にあったのかは分かりませんが、これが加わったことでゲームは更に面白くなりました。しかし黒川氏にとっては結果が出るまでのプロセスが楽しいのであって、結果が見えてくるとゲームオバーなのです。今回も5月13日時点で自民党は芸能人・文化人を中心としたツイートデモに関わらず、検察庁法改正の採決を行う方針でした。この方針は変更される見通しはなく、黒川氏にとってはここでゲームオーバーだったのです。あとは自ら終わらせる番です。そこで実行されたのが5月13日夜の賭けマージャンでした。かねてから打ち合わせてあった文春砲を炸裂させて、自らの違法な東京高検検事長の状態に終止符を打ち、検察にとって望ましくない検察庁法の改正を葬り、ゲームオーバーとしたのです。
これで慌てたのは安倍政権です。社会の批判を浴びてまで行った黒川氏の定年延長と検察法改正案の成立が徒労と化しました。従ってここでは黒川氏を懲戒処分とすることも考えられました。しかし黒川氏は安倍政権の暗部を知り過ぎるくらい知っており、それはできません。そこで訓戒処分という甘い処分にして、退職金は全額支払うことにしたものと思われます。
今後検察は黒川氏を賭博罪で立件すると思われます。そうしないと検察に対する信頼が地に落ちるからです。しかしこれも黒川氏の想定内だと思われます。違法な定年延長の片棒を担いだのだから当然の処罰だと思っているでしょう。その結果退職金も支払われないことになるかも知れませんが、それも想定内だと思われます。退職金がなくても生活には困らないし、フジサンケイグループから救いの手が差し出されるでしょう。それに黒川氏の戦略思考は企業でこそ生かされると考えられます。商社などがリスクマネジメント、法務、経営戦略などの担当として副社長クラスで迎えてもおかしくありません。
私は当初と黒川氏は歴史上の人物で言うと黒田官兵衛かな思っていましたが、今は伊藤忠商事の名参謀と言われた瀬島龍三氏にだぶらせています。