石破茂議員の「地域分散」「内需主導型」国家などありえない

次の首相を目指す自民党の石破茂衆議院議員は「文芸春秋」7月号のインタビュー記事で、「地域分散」「内需主導型」国家を目指すと述べたという報道です。もし事実ならとんでもない的外れな国家目標です。このインタビューの中で、和歌山出身の二階幹事長や秋田出身の菅官房長官、島根出身の竹下亘自民党竹下派会長の名前を上げ、秋波を送ったとのことですから、首相になるために地方出身議員や総裁選の地方代議員受けを狙った国家目標を打ち出したものと思われます。

現在コロナ対策で国債を増発しており、既に今期60兆円の発行が決まっています。この結果今期末の国債残高は1,000兆円を突破します。昨年の日本のGDPが約550兆円ですから、対GDP比では約180%となります。多くの先進国は100%以下ですので、先進国中ダントツに悪い数字です。国債のうち約半分は日銀の保有であり、他の大部分は国内投資家が保有していますで、ギリシャのような事態(海外投資家から取り立てられる)になる心配はありませんが、国の借金がこれだけ累積していることが正常でないことは間違いありません。このまま累積して行けばどこかで破綻を来すことは間違いないのですが、どんな結末になるのは誰も分からないのです。私の予想では、累積額と同時に国家予算の半分近くが国債で賄われる国の通貨(円)は信用できないとして、円の価値が暴落→輸入物価が高騰→国内物価が高騰→インフレ、と連鎖し、国民生活が大打撃を受けるのではないと思います。

なぜこんなに国債依存率が高いのかと言うと、税収が少ないのに、国が医療費や年金に多額の支出をしているからです。今の税収なら、健康保険料は今の2倍、基礎年金は半分が妥当ということになります。では税率が低いのかと言うとそんなことはありません。消費税などは欧州より5~10%くらい低いですが、その他の公的負担(健康保険料、年金掛け金など)を含めると、そんなに変わりません。日本の収入に占める公的負担の割合は約45%に達していると言います。これは収入のうち所得税や健康保険料、年金掛け金などで45%引き去られるということです。残った55%で生活費、子供の学費、生命・損害保険料などを賄うことになります。普通以下の家計で見ると公的負担率は限界に来ています。ということは、今の所得ではこれ以上税金は増やせなないということです。同時に健康保険料や年金掛け金も増やせません。

ならばどうしたらよいか?GDPを増やすしかありません。GDPを今の倍にすれば所得も今に倍になり、税収も今の倍になります。そうすれば1,000兆円の国債残高は対GDP比約100%となり、国際的にも問題のないレベルになります。GDPの増やし方としては、内需主導型と外需主導型がありますが、どちらが実現可能かということです。石破議員は内需主導型が実現可能と言っていることになります。果たしてそうでしょうか?バブル後日本経済は約20年間低迷し、安倍首相の金融緩和策によって低迷は脱出したように見えますが、成長軌道には乗っていません。金融緩和策で狙ったのは内需主導で経済を成長軌道に乗せることでした。しかし、これが上手く行かなったのは昨年10月からの消費税2%引き上げ後の経済不振を見れば明らかです。日本は人口減少と高齢化に直面しており、内需主導型の社会ではありません。子供はどんどん減少し、家は余り、学校はどんどん少なくなっています。高齢家庭が増え、欲しい商品もない状態です。また高齢家庭では衣料費や食費も減少します。こんな中でどうやって内需主導型経済を作ろうというのでしょうか?絶対無理です。

日本経済を成長軌道に乗せるには、輸出主導型しかありません。

これを唱えるデービット・アトキンソン氏の著書によると2015年当時の日本の輸出総額は6,240憶ドルと世界3位ですが、GDP比で見ると16%であり、世界でも低い順位となります(数字はアトキンソン氏の著作から引用。なので2015年度のデータ)。一方ドイツは1兆2,920億ドルでGDP比46%、お隣韓国は5,350憶ドルでGDP比42%となっています。これらの国の人口を見ると、日本1億2,700万人、ドイツ8,180万人、韓国5,160万人ですから、国民人当たりで見るとドイツ15,800ドル、韓国10,371ドル、日本4,914ドルとなります。これから日本の輸出額が少なく、大きく伸ばす余地があることが分かります。

観光では外国人旅行者数を10年で約4倍の約3,200万人まで増やした実績があります。この努力を輸出でもすれば、10年で輸出額を倍増することは難しくないと考えられます。それでも1人当たり輸出額は現在の韓国以下であり、アトキンソン氏はドイツ並みの3倍増が可能と言っています。毎年各企業に10%の輸出増加を目標に掲げさせます。政府も経済産業省や外務省に輸出促進担当部署を作り、商談会の開催や売り込みを後押しします。また輸出増加によるその年の利益は法人税非課税とします。こういう努力を10年続ければ輸出額は倍増し、GDPは1,000兆円に近づきます。内需主導型でGDPを増やすより遥かに容易です。

石破議員の「地域分散」「内需主導型」の国家目標というのは、首相になるための方便であり、もしこれが本気なら石破首相では失われた時代になります。まだ安倍首相の金融緩和によるGDP増加策の方が良かったということになります。(「地域分散」についても経済成長を目標に置くのであれば得策ではありません。)