官僚を不人気職業にした安倍首相

8月21日、2020年度の国家公務員総合職試験の合格発表がありました。1,717人が合格しています。ここで注目すべきは、東大生が249人と昨年と比べ58人、18.9%減少していることです。これは1998年度以降最少で、全体に占める割合も14.5%と2.6%減少しています。

他の国立大学では、京大が前年の126人から131人へと5名、名大が30名から51名へと21名、東工大が33名から51名へと18名増加していますが、その他の合格者上位常連の大学は軒並み減少しています(北大12人、東北大10人、大阪大15人、九大19人の各減少)。私立では早大が前年の98名から90人へと8名の減少、慶大に至っては75名から48名へと27名も減少しています。一方立命館大が33人から59人と26名、中央大が59名から65名と6名の増加となっています。

これについてある省庁幹部は「待遇の良い民間企業に東大生が流れている」と分析しているとのことですが、それだけではないと思われます。これまで官僚の主流は、元々官僚養成大学である旧帝大系の大学卒業生であり、その中心は東大卒業生でした。中央官庁では、採用試験の上位者を幹部候補として養成するため、成績の良い東大卒業者が官庁の幹部を独占する結果となっていました。このため中央官庁は、試験に強い東大卒業生にとってはとっておきの職場と言えたと思います。また、明治維新以降日本は短期間で産業を近代化し、西洋列強に追い付きましたが、その計画を立案し主導したのは官僚でした。従って官僚は日本近代化の最大の貢献者と言えます。政治との関係においても最近まで、官僚が優秀な計画を提示し、それを有力政治家が後押しするという関係だったと言えます。実力政治家の後ろに優秀な官僚ありでした。

この関係が変わったのは、安倍政権が2014年に内閣人事局を置き、審議官以上の人事については内閣の承認を要するとしたことによります。その後安倍首相の秘書官を務めた官僚が出身官庁の事務次官になるケースが多発し、官僚の幹部人事に内閣の意向が強く出るようになりました。この結果、官僚人事は実力主義ではなく、安倍首相や安倍首相の側近に近いかどうか、気に入られているかどうかで決まると考えられるようになりました。また、2018年森友学園問題において財務省の佐川理財局長(当時)が国有財産売却過程を記した記録や議事録を改ざんするよう指示したことが明らかとなりました。また、加計学園問題では安倍首相の元秘書官で、その後経済産業省に戻っていた柳瀬審議官(当時)も国会に参考人招致され、記憶にないを連発し、ほどなく退官しました。今年6月には官邸の顧問弁護士と言われ、安倍内閣幹部の不祥事を不起訴に持ち込むことで活躍したと言われる黒川東京高検検事長(当時)を安倍政権は強引な定年延長により検事総長にしようとした結果、国民の反発を受け、最後は自らの不祥事(賭けマージャン)により辞職に追い込まれました。

このように安倍政権においては、官僚は安倍首相の盾であり、公私にわたり滅私奉公した者が論功行賞として首尾よく出世するか、途中で墓穴を掘り辞職に追い込まれるかの二者択一の様相を呈しました。これらの官僚はいずれも東大卒業生でした。

これをテレビや新聞なで見知っている東大生に、「官僚になっても碌なことはない」と言う意識が芽生えたのは当然のことです。それに加え今の東大は、多くの有望ベンチャー企業の経営者を輩出しており、ベンチャー企業を起こし成功することが優秀な東大生の第一選択肢になっています。現在のベンチャー環境では、AIやバイオ・創薬など高度な頭脳が成功に繋がる確率が高く、まさに東大生向きです。多分今の日本でベンチャー企業を起こし成功する確率が一番高いのが東大生です。なので、現在一番優秀な東大生の卒業後の進路は、先ず外資系コンサル会社に入り、事業の実体・成功するための要件を学び、数年後にベンチャー企業を起こすことだと思われます。そして次が外資系金融機関、国内大企業への就職であり、4番目が官僚になっていると思われます。

今年の国家公務員総合職の採用試験で東大生の合格者が58人も減少した背景にはこのような現実があると思われます。そしてこの約2割の減少は、優秀な学生から順に来なくなったと考えた方が良く、入省者は能力的にワンランク落ちる学生になると思われます。

安倍首相の不祥事を隠蔽することやご機嫌取りが最大の仕事となった官僚を、国の屋台骨を作るという魅力的な職業に戻さないと、もう優秀な東大生は官僚にはならないと思われます。