若手官僚の退職増加、行き着く先がいかさま師では夢も希望もない

人事院の調査によると、自己都合を理由とした20代の国家公務員総合職の退職者数が2019年度87人に上り、6年前の21人から4倍超に増加したという報道です。30歳未満の中で「辞める準備をしている」「1年以内に辞めたい」「3年程度のうちに辞めたい」とした人が男性で約15%、女性で約10%といたということですから、今後まだまだ増加すると思われます。

退職理由では「もっと自己成長できる魅力的な仕事に就きたい」との回答が男性49%、女性44%。「長時間労働で仕事と家庭の両立が難しい」は男性34%、女性47%だったということです。これをもって河野行革担当大臣は、勤務時間が長いいわゆる「ブラック職場」の状態を改善する必要があると述べています。

確かに勤務時間の長さも退職増加の一因ではあるでしょうが、これは昔からあったことで、6年前から急に長くなったわけではありません。民間企業では雇用が不安定となっており、勤務時間は長くとも雇用が保証されている官僚を辞める最大の理由にはならないと考えられます。若者が官僚を辞める最大の理由は、この6年間に官僚に起きた事件に求められると思います。この6年間と言えば安倍政権の時代です。この期間の最大の出来事は森友学園事件です。あの事件では、国会で近畿財務局が森友学園に土地を売却した経緯を記録した書類や決裁書類の提出を求められた財務省の佐川理財局長(当時)は「書類は破棄した」と答弁しましたが、その後その書類は存在し、佐川局長が都合の悪い事項の改ざんを指示していたことが発覚しました。この件では、佐川局長はテレビの国会中継の中横柄な答弁を続け、安倍首相や麻生財務大臣がそれをけしかけていました。佐川局長は安倍首相や麻生財務大臣のために虚偽の答弁を行っているのは明白でした。その後佐川理財局長は明らかにその論功行賞として国税庁長官に昇進しました。しかしこの事件の告発を受けた大阪地検特捜部が捜査した結果、文書改ざんの事実が明らかとなり、大阪地検特捜部としてもこれは隠し通せないと判断し、関係者を起訴しない代わりに、佐川局長は辞職、改ざん文書は自主的に公開することで、政府との間で取引が成立したようです。この一連の出来事を見ていた官僚は、佐川局長の嘘を重ねる答弁が恥ずかしくて仕方なかったと思われます。特に国家を担う使命に燃えている若手官僚は、行く末がこれでは浮かばれないと考えたと思われます。

安倍政権下では加計事件でも官僚の虚偽答弁と思われる事件がありました。ここでは経済産業省の棚瀬審議官(当時)が首相の秘書官を務めていた2015年4月に愛媛県職員らと首相官邸で面会した際に柳瀬氏が「本件は、首相案件」と発言したと記録された文書が見つかりましたが、棚瀬審議官は国会に参考人招致された際、学園関係者らと会ったことは認めましたが、「総理に(面会を)報告したことも、指示を受けたことも一切ない」と述べました。首相秘書官は首相に近侍し、首相関連の出来事は報告する義務がありますから、この件を全く報告しないことはあり得ません。官僚なら棚瀬審議官が安倍首相を守るために嘘をついたと分かったはずです。棚瀬審議官もこのまま経済産業省に居たらこの答弁の論功行賞で事務次官に昇進したでしょうが、良心の呵責に耐えられなかったのかその後突然退官しました。

更に黒川東京高検検事長の違法な定年延長事件も官僚にとって耐えられない事件だったと思われます。黒川検事長は安倍政権で長く法務省官房長や法務次官を務め、安倍政権幹部が起訴されること(甘利大臣の斡旋収賄容疑など)を防いだと言われていました。この黒川検事長の63歳定年(2000年2月)が迫っていたため、安倍政権で稲田検事総長を勇退させて黒川検事長を検事総長にしようとしたところ、検察人事への政治介入を嫌った稲田検事総長が任期(2000年7月)一杯務めると言い出したため、検察庁法の解釈を変更し、黒川検事長の定年を半年延長したものです。日常法律を扱っている官僚なら無理筋であるとすぐ分かります。これも日本は法治国家だと信じていた官僚にとっては失望させる出来事だったと思われます。この結果、若手官僚が見ても優秀だと思われた黒川検事長が賭けマージャンで辞職という結末になったことも若手官僚の夢を打ち破るものとなったと思われます。

若手は体力もあり、使命感に燃えていることから、長時間労働は辞めるほどの苦痛ではないと思われます。むしろ安倍政権下で幹部官僚の嘘や誤魔化しを見て、これが将来の自分の姿かと考えると夢も希望も無くなったものと思われます。従って、若手官僚の退職を防ぐには、官僚が嘘や誤魔化しをしなくてよい、即ちいかさま師にならなくてよい行政作りが最も重要となります。