日産、優秀な社員の退社が止まらない?

1月18日のBloombergの報道によると日産自動車(日産)は国内の主要拠点で勤務している全契約社員約800人を今年4月から正社員とする方針を明らかにしたと言うことです。その目的は、業績の大幅悪化を受けて進めてきたコスト削減の成果で財務に余裕が出てきたこともあり、待遇を改善して人材の確保に努めるためと発表していますが、果たしてそうでしょうか?

日産は前期(20年3月期)純損益が6,712億円の赤字に転落しています。そして今期も新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり6,150億円の赤字を見込でいます。今期の第二四半期(昨年の7-9月期)の営業損益は新車販売の回復や経費削減の効果もあり48億円の赤字と第一四半期の2,842億円の赤字が大幅に縮小しています。第一四半期の損失には、操業停止を決めた海外工場の除却損や従業員退職金、現地法人への投資損失などの特別損失が多く含まれており、これらを除く通常の営業レベルでの損益は第二四半期と同程度だったと思われます。日産が昨年5月に公表した事業構造改革計画では2024年3月期までの4年間で生産能力を20%削減するなど年間固定費を2018年度比で3,000億円削減する計画ですので、これは順調に進捗していることが伺えます。

今回約800名の契約社員を正社員にすることを決めたということは、固定費のうち人件費の削減が計画以上に進捗していると考えられます。ということは、正社員の退職が続出していることが予想されます。日産からは2019年12月社長の呼び声が高かった関潤副COOが退社し、2020年2月日本電産社長に就任しています。その後日産幹部3人が後を追う形で退社し、日本電産に入社しています。この報道の際これ以外の幹部にも退社の動きがあると報道されています。特に日産がリーフ等で先行する電動自動車の開発エンジニアについては、トヨタやホンダ、スバルなどでニーズが多く、相当数の退社・移籍があったと考えられます。日産の今第二四半期の業績を見れば回復しているように見えますが、再建資金として2兆円を超える借入および借入枠を確保しており、この額は1999年日産が経営危機に陥りルノーが出資したときと同レベルです。当時はまだ売却する優良資産も多く、合理化で再建する目途がありましたか、今は売却する優良資産も少なく、借入金の返済は利益によるしかありません。自動車業界は過当競争の状態にあり、一旦落ち込んだ販売ボリュームを回復するのは容易ではなく、利益を以前の状態に戻すのは難しいと思われます。かつ前回は社長に就任したカルロス・ゴーンがコストカッターとして有名になるくらい厳しい合理化を進めましたが、今回は国内での合理化は聞こえてこず、却って心配になります。

こういうことを考えると優秀な開発エンジニアがこのまま日産に留まるとは思われず、既に相当の退職者が出て、一部の開発部門では開発業務に支障が出ていると予想されます。これに危機感を持った動きが今回日産が発表した契約社員の正社員化ではないでしょうか。

尚今後日産が再建を果たすためには約2兆円の借入金の削減が必要となります。この借入金の中には年利4%を超える海外起債の社債も含まれており、利益を減らす要因となっています。これらを利益だけで返済するとなると、再建がうまく行ったとしても10年を超える時間が必要となり、その間開発費を圧迫します。従って再建が軌道に乗ったどこかの時点で資産を売却して一挙に借入金を減らすことが考えられます。その資産としては日産が保有するジャトコ株が考えられます。ジャトコは自動車の変速機メーカーで、日産が株式の75%を持っています。日本電産は次の成長分野として電動自動車のモーターに照準を合わせており、変速機と組み合わせると自動車の心臓部を握ることができます。そのためジャトコは何としても欲しい会社のようです。既に日本電産は、昨年日産にジャトコ株買収の提案を行ったようですが、日産は断ったようです。しかし日本電産は、日産はいずれジャトコ株を手放さざるを得なくなると考えており、その通りだと思われます。その場合売却価格は5,000億円を超え、日産は一挙に借入金を減らすことができます。日産が再建を果たすためには避けて通れない道です。