安倍政権の功績は国債の半分を償還したこと

自民党総裁選が行われていますが、当選回数が少ない自民党国会議員たちは危機感が強いようです。誰が総裁=首相になるかで自分らが国会に戻って来れるかどうかが決まるのに、投票する人を派閥で決められたら堪らないと結束し、非拘束を勝ち取りました。菅首相のままなら少なくとも2割、場合にはよっては3割の自民党議員が落選すると言う選挙専門家の予想であり、当選回数が少ない議員にとってこの状態は恐怖以外の何物でもなく、今回の総裁選に寄せる期待は並大抵ではないと思われます。

ではなぜこうまで自民党が不人気になったかというと、安倍首相が7年8カ月の任期中に破廉恥な政治をやったからです。友人を優遇した加計問題、本人や夫人まで登場した森友問題、更に森友問題では公文書偽造まで行われ、それを指示した官僚を安倍首相と麻生財務大臣が煽り、偽造を実行した担当者が自殺すると言う悲惨な結果を招きました。また安倍首相自身も政府主催の桜を見る会に自身の後援会関係者を多数招待し、選挙運動として利用していた疑いが浮上しました。これは安倍首相在任中は解明されることはありませんでしたが、退任後桜を見る会の前夜に行われた安倍後援会パティ―の会費を安倍事務所が支出し、政治資金報告書に記載していなかったことが判明しました。在任中には、これらの疑惑の捜査を逃れるために黒川東京高検検事長の定年を法律の解釈変更で延長して検事総長にしようとしました。これはネットを中心に国民の強い反発を呼び、黒川検事長の賭けマージャンが発覚したことから頓挫しました。このように安倍政権7年8カ月には多くの国民が我慢ならない問題が次から次へと発生しました。その間に総選挙があれば自民党は大敗を喫していたはずです。次の総選挙はこの安倍政権の悪事に鉄槌を下す機会であり、今か今かと待ち受けている有権者が多いのです。従って、今回の自民党総裁選で誰が総裁になり首相になっても自民党の議席は大きく減少します。ただ誰が総裁になるかでその減少幅が異なるだけです。私の予想では高市総裁が一番減少幅は小さくなると思います。なぜならば、ネットで高市氏は高い支持を受けていますが、支持者は無党派層だからです。即ち、高市総裁なら確実に減少する票をこの無党派層の票が補う形となるからです。

このように自民党の当選回数の少ない多くの議員を落選に追い込もうとしている安倍首相ですが、1つだけ将来評価されることになることをしています。それは1,000兆円を超えるまで膨らんだ国債残高の約半分(約545兆円。2021年5月末)を事実上償還したことです。正しくは償還したのと同じ状態にしたことです。

安倍政権(一部菅政権)では大規模金融緩和と称して銀行や生損保、投資家などが保有する国債約545兆円を日銀がこれらの投資家から買入れました。これは国債の保有者が投資家から日銀に代わっただけで国債が国の債務であることには変わりませんが、実体は大違いです。と言うのは、日銀の出資口数の55%を財務省が持っており、日銀は財務省の子会社みたいなものです。子会社というのは親会社と実質上一体ということです。即ち、財務省が買入れたのと同じことなのです。日銀は財務省の子会社だからこの約545兆円の国債の償還を財務省に求めることはありません。それは日銀が返済の必要ない資金を使って国債を購入しているから可能となります。銀行は法律(準備預金制度に関する法律)で受け入れた預金の一定割合(0.05~1.5%)を日銀の当座預金口座に預けることが義務付けられており、日銀は主にこの法定準備預金(2021年3月末で約522兆円。預金総額は549兆円。)を使って約545兆円の国債を購入しているのです。この預金はこの法律が無くならない限り無くならないし、銀行預金は今後増えることはあっても減ることはないと考えられますので、法定準備預金も増えることはあっても減ることは無いと考えられます。実際コロナで大きな赤字を出した企業に銀行は巨額の資金を貸し付けていますが、この資金を銀行が企業に振り込むと、企業は一部を必要な運転資金として使い、大部分は銀行預金とします。そのためこれ対応で銀行が日銀に置く法定準備預金が増えています。このように日銀が国債の購入に充てている原資は無利息で長期にわたって返済する必要がない資本金みたいな性質の資金なのです。これで国債を購入することは日銀にメリット(国債利息収入)がありますし、日銀は余った利益を財務書に納入するため、財務省にもメリットがあります(実質的に日銀保有の国債は無利息と同じになる)。このように日銀が国債を買入れる仕組みは良く考えられたものです。そしてこれが出来るのは、銀行などから国債を買入れて市中の資金量を増やしてもインフレにならない経済状態にあるからです。実はこれは1990年代後半以降の早い時期に採られるべき政策でした。これまで旧来の健全財政の呪縛に囚われて誰も実施出来なかったのです。これを実施したのが安倍首相と黒田日銀総裁ということになります。これは将来英断として評価されることになると思われます。現在行われている自民党総裁選の中で高市早苗議員はプライマリーバランスに拘らないと言っており、この結果国債が増発されることになりますが、同時に日銀買入を増やして国の借金(国債の投資家保有分)を増やさないようにするはずです。