トヨタが現代自動車に抜かれる日

2月8日、韓国の現代自動車(ヒョンデ)が日本で販売を再開したという報道です。ヒョンデは2009年販売不振により日本での乗用車販売から完全撤退しており、12年ぶりの再参入ということです。販売車種は電気自動車(EV)のアイオニック5、燃料電池自動車(FCV)のNEXO(ネッソ)の2車種で、オンライン販売のみということです。従って量販を狙った再参入ではないことが分かります。また今後ディーラー網を作ることも難しいことから、日本国内で脅威になることもないと思われます。こういう中でヒョンデが日本再参入を果たしたのは、トヨタへの宣戦布告の意味合いが大きいと思われます。

2021年の世界販売を見るとトップのトヨタ1,049万台に対し、ヒョンデは667万台(5位)とまだかなり差があります。しかしヒョンデの勢いはすさまじく2021年には米国市場で148万台(21.6%増)を販売し、ホンダ(146万台)を抜いています。更に欧州では101万台を販売し、シェア8.7%で4位(VW,ステランティス、ルノーの次)を記録し、100万台だったトヨタを抜いています。アジアでも販売を伸ばし、日本メーカーの牙城を侵食しています。2021年5月にはインドで絶対王者マルチスズキから販売シェア1位を奪い、ベトナムでも2021年度販売シェアがトヨタを抜き1位になったようです。このようにヒョンデは世界中で次々と日本車からシェアを奪っています。この様子は家電でサムスンが日本のソニーやパナソニックから世界中でシェアを奪って行ったのと似ています。

私がヒョンデに注目したのは、2018年11月に日産のカルロス・ゴーン会長が逮捕された後、ゴーンが連れてきた外国人役員が次々と辞めて行きましたが、その中で2019年4月、ヒョンデが日産米国販売責任者を務めていたホセ・ムニョス氏をグローバルCOOに招聘したときでした。日産の米国販売については、販売奨励金が高過ぎて利益が出ていないと批判されていましたが、日産車販売の中核を占めていたのは間違いなく、ムニョス氏の拡販手腕は世界の自動車業界でも評価されていました。これを引き抜いて日産よりも高い地位に就けたところで、ヒョンデの躍進は約束されていました。

日産ではカルロス・ゴーン氏の本当の報酬は約20億円であり高額過ぎると批判されましたが、ムニョス氏の日産時代の報酬は10億円程度であり、ヒョンデは当然これを上回る報酬を提供していることになります。一方日本を見るとトヨタの豊田社長の報酬は約4億円となっており、トヨタで欧州担当役員だったルロワ副社長(当時)の10億円以上の報酬より低くなっています。これは日本の自動車メーカーの多くが取っている内外報酬格差政策であり、日本企業が国際競争に勝てない原因となっているように思われます。ヒョンデの工場労働者の賃金はトヨタより高いと言われており、役員報酬で見てもトヨタとヒョンデでは相当の差がある(ヒョンデが高い)と思われます。民間企業の場合、やる気を引き出すのは報酬しかなく、ヒョンデの世界基準の報酬体系がヒョンデの世界販売躍進の原動力になっていると考えられます。

これが正しいとすれば、豊田社長の報酬を世界基準とし、トヨタの日本人役員の報酬が外国人役員と同等にならない限り、トヨタの今後の成長はなく、報酬インセンティブが高いヒョンデに抜かれる日が10年以内に来ると思われます。