これで有権者は選挙でお金を貰っても起訴されない

2019年の参議院選広島選挙区で河井克行元衆議院議員・同案里元参議院議員から現金を受け取ったとされる100人のうち、当初不起訴とされ、その後検察審査会で起訴相当と議決された地元議員ら35人のうち34人について、検察は3月14日、公職選挙法違反の罪(被買収)で起訴しました。起訴でも、検察審査会の議決後の聴取で容疑を認めた元議員ら25人については罰金刑を求める略式起訴、認めなかった9名については裁判を求める正式起訴となっています。尚起訴しなかった1名は病気により裁判に耐えられないと判断されたということです。一方検察審査会が不起訴不当と議決した46人については、再び不起訴としています。これらの再処分については、検察審査会に再審査を請求することはできませんので、本件はこれで終結することとなります。

これは昨年7月に検察が100人全員を不起訴処分としたときに描いていたシナリオ通りと言えます。検察としても議員らの公職者とそれ以外の者で求められる規範に差があり、処分に差を付けるべきだと言うことは分かっていたはずです。これまでの取扱いでは公職者は正式起訴、それ以外の者は略式起訴となります。しかし今回は、容疑者の多くが捜査の過程で買収目的の金銭の授受であったことを認め、河井元議員らの裁判でも証言していることから、聴取の過程で検察から容疑を認めれば「悪いようにはしない」との取引が持ち掛けられていたと思われます。それなら公職者は略式起訴、その他の者は不起訴とすればよいのですが、それでは不起訴としたその他の者について審査請求がなされ、起訴相当の議決がなされる可能性が高くなります。要するに、検察で容疑者を起訴と不起訴に分ければ、結局共に起訴せざるを得なくなる可能性が高いのです。そこで考えられたのが全員不起訴でした。こうすれば検察審査会の方で、公職者とその他の者で処分に差をつけてきます。今回議決にあったように、公職者は起訴相当、その他の者は不起訴不当となることが予想されます。そしてその通りになっています。今回は検察が処分に検察審査会を利用した最初のケースになると思われます。

検察が検察審査会の議決を受けて判断を変えるとすれば起訴相当しかなく、不起訴不当は実質的に検察の処分に同意したことと同じです。そのため検察の不起訴の処分がおかしい場合は不起訴不当ではなく起訴相当と議決しないと意味がないのですが、検察審査会の委員は案件ごとに一般市民が選ばれますので、そこまで頭が回らないと思われます。今回はここを検察に突かれています。

今回の検察の処分により今後選挙において有権者は堂々と金銭を受領できることとなります。なぜなら、選挙でお金を受取っても起訴されるのは公職者のみで、一般有権者は起訴されない取扱いが確定したからです。公職選挙法は金銭の受領者が公職者かそうでないかで処罰の対象を分けていませんので、この取扱いは検察が公職選挙法を改正(改悪)したことと同じこととなります。行政執行機関による立法行為であり、甚だしい公権力の濫用に当たることが分かります。2018年の日産ゴーン会長ら逮捕と言い、新設された司法取引制度が検察の暴走を招いたようです。今後検事総長を民間から指名する、検察の捜査に公権力の濫用があったと判断される場合検察審査会に検事総長に対する懲戒処分勧告権(内閣総理大臣に対して)を与えるなどの検察改革が必要となっています。