意外にも「資産所得倍増計画」が参議院選の致命傷となる

6月22日参議院選挙が公示され、7月10日投開票となります。5月末には新聞調査で岸田政権の支持率が上昇し、政権成立以来最高(68.9%)を記録するなど自民党圧勝の予想が大勢でした。しかし最近岸田政権の支持率が急落し、中には48%という数字を出したところもあります。この間に何があったかと言えば、6月6日に日銀の黒田総裁が「家計の値上げ許容度も高まっている」と発言し、6月7日に岸田首相の肝入り政策である「新しい資本主義」の実行計画が閣議決定されました。このうち支持率の急落に一番影響下したのは黒田総裁の発言だと思われます。黒田総裁としては、最近の物価上昇を正当化するために、家計にはコロナで外出ができず消費に回らなった資金が約20兆円あり(強制貯蓄と命名)、これが値上げを吸収するから「値上げ許容度も高まっている」と表現したようですが、これは一部の家計であり、それを上回る家計が収入減少や将来不安の状態にあることに思いが至らなかったようです。一般市民にとっては黒田総裁と岸田首相は一体ですから、一般市民の反発が岸田政権の支持率低下として現れたものと思われます。物価の上昇はこれからが本番であり、参議院選挙の投票日まで有権者は物価上昇を実感し続けることになるため、岸田政権への反発は高まることはあっても低くなることはないと思われます。

これに加え有権者の反発を受けているのは、岸田首相が「新しい資本主義」の1つの柱としている「資産所得倍増計画」です。これは岸田首相が昨年9月自民党総裁選挙に立候補したときの公約である「令和の所得倍増計画」が置き換わったものですが、良く考えると余裕資金がない家計には無縁の政策です。この計画が出てきた背景には、1995年からの20年間でアメリカの家計金融資産は3.14倍になったのに対し、日本の家計金融資産は1.51倍の増加に留まっており、その原因は株式などの投資商品の保有率が米国46.2%に対し、日本18.6%にあるとの統計データ(2016年)があります。日本の家計が株式を米国並みに持っていれば、日本の家計の金融資産も米国並みに増えていたはずだと言うわけです。しかし日本の家計の資産が米国並みに増えなかった本当の原因は、日本は1990年以降30年近く経済が低迷しているのに対し、米国経済は成長を続けているという事実であり、株式の保有割合ではありません。1990年以降日本の経済が米国並みに成長していたとすれば、家計の所得が上がり、株式保有割合も増加していたと考えられます。従って、この「資産所得倍増計画」は日本の本当の問題点(経済が成長していない)に手を付けず、一番安易なことを言い出したということができます。

それにこんな政策出されても、7割の家計は所得の大部分を生活費や教育費などの必要経費に充てており、余裕資金はわずかです。この余裕資金は将来の生活不安に備えて貯金するのが当然です。一般家計の場合、年間生活費の3年分の貯金がないと、株式投資には回せません。株式が資産形成に有効なのは余裕資金で購入し、価格変動に一喜一憂せず長期に保有する場合です。こう考えると日本の家計の株式保有割合が約20%に留まるのが理解できます。「資産所得倍増計画」が多くの家計に恩恵をもたらすためには、先ず所得の増加政策が必要であることは自明です。岸田首相はこれを飛ばしており(すり替えており)、一般家計から「馬鹿か、お前は!」と思われています。

有権者の間に「黒田と言い岸田と言い、全く!」と言う感情が溢れており、参議院選挙では自民党は大敗とはいかなくとも議席を減らすことは間違いないと思われます。