「トヨタイムズ」と「ロバの話」
2020年6月11日に開かれたトヨタの定時株主総会の壇上、豊田社長が唐突に次のような話を始めたそうです。
「話は長くなりますが、ロバを連れている老夫婦の話をさせていただきたい」
「ロバを連れながら、夫婦二人が一緒に歩いていると、こう言われます。
『ロバがいるのに乗らないのか?』と。
また、ご主人がロバに乗って、奥様が歩いていると、こう言われるそうです。
『威張った旦那だ』。
奥様がロバに乗って、ご主人が歩いていると、こう言われるそうです。
『あの旦那さんは奥さんに頭が上がらない』。
夫婦揃ってロバに乗っていると、こう言われるそうです。
『ロバがかわいそうだ』。
要は『言論の自由』という名のもとに、何をやっても批判されるということだと思います。
最近のメディアを見ておりますと『何がニュースかは自分たちが決める』という傲慢さを感じずにはいられません」
豊田社長はマスコミ嫌いで有名であり、それも普通の大企業の経営者なら喜びそうな日経も嫌っています。そのため日経にトヨタの記事は殆ど出ません。出るとしたら決算情報くらいです。日経で良く見られる大企業のスクープ情報もトヨタに関しては皆無です。それは豊田社長およびトヨタの幹部が日経の記者を寄せ付けていないからだと思われます。
豊田社長が日経嫌いになったのは、以前トヨタに関して日経が書いた記事に誤りがあることが何度もあったからのようです。記者は業界に通じていない者も多く、記事には間違いが多々あります。また一部を切り取り読者の関心を引く内容に編集している記事もたくさんあります。そのため書かれた企業からすると「なんだこの記事は?」あるいは「この程度の内容?」と言うものが多いのです。特に不祥事に関する記事は、正義の味方新聞が悪い企業を成敗するような書き方をします。企業側にとっては忘れられない出来事となります。
トヨタも昨年販売店で不正車検が発覚しましたし、今年は子会社の日野自動車で型式認定を取り消されるという不祥事が起きました。これもマスコミで厳しく叩かれましたが、トヨタ側は一切取材に応じていません。取材に応じても正しく書かない、単なる叩く材料とする、別の攻撃材料とするなど火に油を注ぐだけと考えているためだと思われます。
確かに今のマスコミは異常で、実社会とは離れて架空のマスコミ社会を作り上げ、そこで日々言葉の空砲を打ち続けています。これは巨大になったマスコミ社会を回すためであり、その結果実社会を歪めています。インターネットが無かった時代においては、企業が自身や製品、サービスを世の中に知ってもらうには新聞やテレビを中心としたマスコミに頼るしかなく、企業はマスコミのレベルやモラルの低さに我慢して付き合って来ました。しかし今ではテレビや新聞に変わりインターネットが情報伝達の中心となっており、これまでのように我慢してテレビや新聞などの旧来型のマスコミと付き合う必要性は無くなりました。
これが豊田社長の「ロバの話」の背景にあると思われます。
豊田社長がトヨタ社内にオウンメディアとして「トヨタイムズ」を設置したのはこの前年であり、これによりトヨタは自社メディアによる情報発信に舵を切りました。最近テレビでみるトヨタの広告は自社メディア「トヨタイムズ」のみです。「トヨタイムズ」は豊田社長の「ロバの話」の結論ということができます。