高橋氏逮捕はゴーン逮捕と繋がっている

東京地検特捜部は10月19日、東京オリンピックをめぐる贈収賄事件で広告大手ADKホールディングスと大会マスコットのぬいぐるみを販売したサン・アローからワイロを受け取った疑いで、大会組織委員会元理事の高橋治之容疑者を再逮捕したという報道です。高橋容疑者が逮捕されるのは4回目で、両社からのワイロ総額はおよそ5,400万円にのぼるとなっています。19日にはADKの植野社長も逮捕されており、逮捕者が大手広告会社の社長にまで及んだことは注目されます。

しかし贈収賄事件と言いながら逮捕者は実質民間人ばかりであり、本当に贈収賄事件なのか疑問が残るところです。収賄容疑の高橋氏は元電通専務であり、生粋の民間実業家です。安倍政権で東京オリンピック招致活動に協力し、招致成功の功労者であったことから、森組織委員会委員長から請われて東京オリンピック組織委員会理事に就任したようです。理事といっても非常勤であり、たまに開催される理事会に参加するだけの役割でした。一方では個人でコンサル会社を経営しており、電通時代の人脈を駆使してコンサル料を稼いでいたようです。東京オリンピック決定後は東京オリンピック関連ビジネスのコンサルが中心になったことは容易に想像がつきます。高橋氏としても組織委員会理事の肩書はコンサル契約の獲得に役立つと考えていたでしょうが、まさかみなし公務員になるとは知らなかったと思われます。みなし公務員なら東京オリンピック関連のコンサル収入が収賄に問われる可能性があることは、ビジネスマンなら誰でも分かりますから、理事には就任しません。事実高橋氏は一貫して「理事がみなし公務員になるとは知らなかった。知っていたら理事にはならなった。」と主張しているという報道であり、事実であると思われます。

このように高橋氏の実体は民間ビジネスマンであり、公務員という地位は組織委員会が高橋氏を活用する方便に過ぎません。それは民間人が公的な団体の非常勤役員に就任している場合と同じです。この場合就任者は少しでも世の中の役に立てばと考えて就任しているのであり、この地位を利用して利益を得ようとは考えていません。高橋氏の場合も東京オリンピック関連のコンサルで収益を上げていますが、これは元電通専務と言う地位を利用したものであり、公務員と言う地位を利用したものではありません。それに非常勤理事である高橋氏に業務上の権限はなく、賄賂を貰ったとしてもオリンピックパートナー企業などを決定する権限はありません。組織委員会内で決定する権限があったのは武藤組織委員会事務局長や電通から出向していた常勤の事務局幹部です。これらの幹部に賄賂が渡っていなければ公正な手続きがゆがめられたとは言えず、高橋氏の金銭受領はコンサル契約の対価と何ら区別がつきません。実際ADKは高橋氏が理事に就任する前から高橋氏にオリンピックスポンサー契約獲得の代理店就任の斡旋を依頼していたと報道されており、ADKと高橋氏の取引は民間ビジネスであったことが分かります。賄賂と言うなら高橋氏が通常のコンサル契約の何倍もの対価を得ていたと言う事実が必要だと思われます。

このように見てくると本件は東京オリンピック贈収賄事件の全貌を解明するために捜査に着手されたものではないことが分かります。そもそも東京オリンピックは2020年9月7日に終了しており、東京オリンピック増収賄ならもっと早く着手されていたはずです。ただし昨年9月までは東京オリンピック実現に尽力した安倍、菅政権であり、捜査したくても捜査できなったのかも知れません。昨年9月菅首相が交代し、今年7月8日安倍元首相が凶弾に倒れたことから捜査の障害がなくなり、今年7月に捜査に着手したと考えると辻褄は合います。

一方検察は高橋氏に捜査を集中させており、贈賄に問われたアオキホールディングの青木会長から200万円貰ったと言われる森元組織委員会委員長やスポンサー契約を結んでいたパーク24の取締役に就任していた竹田元JOC会長、実務の責任者だった武藤組織委員会事務局長、スポンサー契約の実務を取り仕切っていた電通出向者(幹部はみなし公務員になるのでは?)に対する捜査には力を入れていないことから、東京オリンピックを巡る贈収賄事件全体の解明には興味がないことが伺えます。要するに東京地検特捜部は最初から高橋氏1人にターゲットを絞っていたと思われます

こう考えて検察を取り巻く出来事を見てくると、ある事件との関連が見えてきます。それは日産元会長のカルロス・ゴーン氏が逮捕された事件です。この事件(有価証券報告書不実記載が主容疑)の主犯とされるゴーン氏はレバノンに逃走しましたが、共犯とされ逮捕された元日産取締役のケリー被告の判決が今年3月にあり、実質無罪(8件の容疑のうち7件は無罪、1件だけ有罪。1件の有罪は検察の顔を潰さないためと思われる)となっています。これにより主容疑である有価証券報告書不実記載でのゴーン逮捕は冤罪の可能性が高まりました(逃亡罪は間違いないが逮捕後のこと)。これを捕らえて検察は崖っぷちに追いやられたと書いた新聞もありました。こんな中翌月の4月、フランス検察がゴーン氏を国際指名手配したのです。容疑はベルサイユ宮殿で行った自身の結婚式費用をルノーに負担させた、オランダにあるルノー・日産・三菱自動車の合弁会社から不当な報酬を得ていた、日産の中東の代理店から販売促進費を還流させていたなどでしたが、これはケリー容疑者の判決で崖っぷちに追い込まれていた東京地検特捜部にとって大変有難い助け舟となりました。ここから東京地検特捜部はフランス検察にお返しをしたいと考えるようになったと思われます。フランス検察は当初、ゴーン逮捕は不当であると言う立場であり、捜査に非協力的でした。一方フランス検察が関心を持っていたのは、東京オリンピック招致を巡り日本の招致委員会からアフリカのIOC委員に賄賂が贈られた件で、日本の検察に捜査協力を依頼していました。日仏間の司法共助により日本の検察も捜査はしたようですが、当然積極的ではなくフランス検察の期待に沿う内容ではありませんでした(2021年1月フランス検察は『日本の捜査協力は限定的で欠陥が多い』と述べている)。このように日本とフランスの検察は利害関係が異なることから良好な関係ではありませんでしたが、フランス検察がゴーン氏を国際指名したことから一挙に良好な関係に変わったと思われます。そこで日本の検察としては、フランス検察が望んでいる東京オリンピック招致活動で賄賂を贈った人物として高橋氏を差し出すこととし、東京オリンピック贈収賄事件の形をとって捜査に着手したと考えられます(7月4日にはゴーン事件捜査と称してフランス検察が来日している)。現在捜査は東京オリンピックのスポンサー契約等を巡る贈収賄が中心になっていますが、捜査のゴールは東京オリンピック招致活動を巡る日本側の贈賄です。最終的に高橋氏を賄賂の提供者としてフランス検察に差し出すために、高橋氏の収賄容疑の件数と金額を増やし、国民に対して高橋氏を極悪人に仕立てようとしているように見えます。

このようにゴーン氏逮捕と高橋氏逮捕は繋がっており、この2つの事件に関係する1人のエリート検察官が注目されます。