「国際卓越大学」が行き着く先は私学化

文部科学省は11月15日、国際競争力を強化するため国内トップ大学を運用益で支援する10兆円規模の大学ファンドの基本方針を公表しました。対象校の選考基準は「引用数上位10%の論文が5年で1,000本以上」とし研究量の豊富さを重視する一方、研究の質が高い中小規模大学にも門戸を開くとなっています。12月に公募を始め、最初の認定校は2023年秋ごろに選ばれる見込みだということです。

当初大学ファンドは「国際卓越研究大」と認定した数校を対象とするとなっていましたが、今回の基本方針を見ると中小規模大学にも対象を広げるとなっており、大学ファンドが文部科学省の第2予算化してきていることが分かります。このファンドの支援を受けるためにはガバナンスの強化が必要であり、学長一人の指導力のみならず、経営や国 際、教育研究の専門性を持つ者を集めたガバナンス体制を構築する必要性があります。これを見ると大学と言うよりは上場企業の研究所体制であり、文部科学省が目指す「国際卓越大学」は実は上場企業の研究所だということが分かります。そこまでいかなくても理化学研究所や産業技術総合研究所のイメージがあると思われます。

「国際卓越大学」の基準としてはTimes Higher Education社が毎年発表する世界大学ランキングの上位大学があると思われます。2022年12月に発表されたランキングを見ると、1位は7年連続で英・オックスフォード大学、2位は米・ハーバード大学、3位は英・ケンブリッジ大学と米・スタンフォード大学、5位は米・マサチューセッツ工科大学となっています。日本勢では東京大学が39位(前年35位)、京都大学が68位(前年61位)となっており、いずれも順位を下げていますから、文部科学省としては日本の威信高揚のためにこの順位を上げることが当面の目標となっていると思われます。

このランキングでは大学を教育、研究、論文被引用件数、国際性の上位項目とそれらを構成する下位項目に分け配点し、総合点でランキングを出しています。これは欧米の大学が指向してきた評価基準であり、欧米の大学、それも古くて大きい大学が上位に来るのは当然です。同時に注目すべきは、上位5校はいずれも私立大学ということです。こういう総合点方式の評価は企業で一般に行われる評価方式であり、これで上位に行くには私立大学の経営形態でないと難しいと思われます。「国際卓越大学」には東大や京大を中心とした数校の国立大学が選ばれるようですが、選ばれた大学が次に目指すのは私立大学化ということになると思われます。それなら早大や慶大を「国際卓越大学」に指定した方が結果は早いと考えられます。一方ノーベル賞を増やすのなら東大と京大に毎年1,000億円交付し(現在の東大の予算は年間約2,500億円)自由に使わせた方が効果的であり、私ならこちらを選びます。