財務官僚の仕事はGDP倍増を実現すること

報道を見ると増税議論が盛り上がっているようです。今年10月の政府税制調査会では、参加した複数の委員から「10%のままでは日本の財政が持つとは思えない」として消費税の引き上げについて議論すべきとの意見が相次いだということです。またこれまでは増税を批判する立場だった立憲民主党でも枝野元代表が昨年の総選挙で消費税の5%減税を公約に掲げたのは間違いだったと述べていますし、岡田幹事長は累進課税や金融所得課税の強化を主張しています。ロシアのウクライナ侵攻で日本の防衛費をGDPの2%まで増やすことは国民のコンセンサスが得られていると考えられますが、その財源は増税が当然のこととなっています。

これに対してネットの書き込みを見ると激しい反発が見られます。「増税と保険料の値上げが少子化要因。 昭和時代に比べて、今の現役がどれだけ搾り取られているか。 当たり前ではないか。昭和時代より子供が減るのは。」など増税が人口減少に繋がっているという主張もあります。バブル崩壊した1990年以降日本では所得が増加しないなかで消費税だけでも7%引き上げられていますので、社会保険料などの引上げを含む国民の公的負担は15%以上増加していると予想されます。こうなると標準世帯以下での増税は限界にきていることは明らかです。こんな状況で政府や政治家から安直に増税の話が出てくるのは、彼らが高所得層に属していることが原因です。標準世帯以下の生活の苦しさが分からないのです。

こんな日本で政治家や官僚が議論すべきは増税ではなくGDPの増加策です。日本が増税を繰り返すのはGDPが増えないのが原因です。日本のGDPは1995年から約30年間約500兆円前後で殆ど伸びていません。米国はこの間年間2%程度伸びていますので、単純には60%以上伸びていることになりますし、世界はこれ以上伸びています。税収はGDPの額にほぼ比例して増加しますから、日本のGDPが米国並みに増加していれば日本は増税しなくてもよかった可能性があります。少なくとも今のような公的負担率(約45%)にはなっていません。2022年度の日本の予算は約100兆円ですが、このうち税収は約65兆円程度です。2021年度のGDPは約540兆円となっていますので、GDPに占める税収の割合は約12%となります。従ってGDPが800兆円になれば税収は約100兆円となり、今の国家予算を賄えることになります(実際は当然歳出も増えるのでこうはいかない)。

このように国民の負担をこれ以上増やさない形で税収を増やし、国家財政を立て直すにはGDPを増加させるしかありません。このことは誰が考えても自明のことですが、日本の政治家や官僚はGDP増加策を真剣に検討してこなかったのです。

お隣韓国の1990年のGDPは約28兆円(1ドル100円換算)ですがこれが2021年には181兆円へと6倍以上伸びています(韓国は輸出振興のためウォン安に誘導してきたため、これでもドルベースのGDPが低く出ている。)これに対して日本は1990年のGDPは約320兆で、2021年度が493兆円ですから伸びているように見えますが、1995年が約500兆円でありこの頃から横這いです。この結果日本は韓国に購買力平価ベース(実質的な為替レート)で見た国民一人当たり所得など多くの経済指標で抜かれています。韓国がこれだけ豊かになった原因はGDPが6倍に伸びたからですが、その要因は徹底的な輸出振興策です。韓国は人口が約5,000万人と少なく内需では豊かになれないとして輸出を増やすことを国策に掲げて実行したのです。その結果韓国のGDPに占める輸出の割合は約42%と先進国ではドイツ(約48%)に次ぐ高さとなっています。これ程輸出が伸びたのは、韓国企業が開発段階から世界市場を意識しているからであり、日本企業が国内市場を意識して開発しているのと大きな違いがあります。この結果DRAMなどの半導体やテレビ、スマホ、液晶ディスプレイなどで世界トップに位置するサムスン電子などの国際的企業が生まれています。

このようにしてGDPを増大させた韓国は税収も増え、国家予算に占める国債依存率は約50%と世界的にも低くなっています(日本約200%、米国約80%)。GDPに占める輸出の割合が約48%あるドイツは最近国債を発行しておらず、輸出の増加が税収増加に不可欠なことが分かります。

公的負担率が約45%に達した日本に残された道はGDPを増やして税収を増加させることしかありません。その中で行うべき方策はGDPに対する輸出の割合をドイツ並みに増やすことです。今が約16%ですから3倍増となります。これは戦後日本が採っていた輸出立国への回帰であり、日本には成功体験があります。ドル円レートも1990年のレベルに落ちており、為替の面でも輸出を増やしやすい環境にあります。この考えは菅首相の経済ブレインを務めたデービット・アトキンソン氏が唱えているものです。アトキンソン氏はインバウンド観光や最低賃金の引き上げを菅官房長官や菅首相に提言し実現しています。岸田首相になって遠ざけられてしまいしたが、主張としては間違いありません。日本屈指の頭脳の持ち主と言われる財務官僚は、岸田首相に増税の入れ知恵をするよりも経済産業省と一緒にGDP倍増策、とりわけ輸出3倍増政策を推進することでのみ自分の価値を証明することが可能です。