岸田政権は安倍政権のコピー

2021年10月に岸田政権ができてから約1年半となりました。この間支持率はアップダウンを繰り返しています。少し前には30%を切っていたのが最近は50%程度まで回復したようです。子供対策のたたき台を発表したことが影響したのでしょうか。子供対策は大幅な社会保険料の引上げや増税を伴うものであり、子供がいない生活が苦しい世帯にとっては喜ばしことではありません。

岸田首相はヤフコメを見ると無能との声が多いですが、日本がやらなくてはならないことをシラっと実施しています。一つが防衛力増強であり、これまで憲法9条を根拠に無防備状態だった防衛力を一挙に普通の国のレベルに増強する道筋を立てました。岸田首相は安倍政権時に外務大臣を約5年務めており、外交交渉では軍事力がないと正しい主張も相手にされないことを痛感していたようです。また北方領土交渉で頻繁にロシアを訪れており、その際にロシア側から軍事的威嚇とも採れる発言が度々あったものと思われます。そのため日本の軍事力増強は第一に対ロシアに向けられているように思われます。防衛力増強は自民党右派の代表と見られていた安倍首相でもなしえなかったことであり、後から見れば岸田首相の歴史的功績になると思われます。そして今回の子供対策も歴史的には今手を打たないと手遅れになる日本の重大な課題であることは間違いなく、これに着手したことはこれまた歴史的功績になると思われます。このように岸田首相は、本人はここまで意識していないと思われますが、後世歴史的に評価されることになる政策を実施しています。

こんな岸田政権のスタッフは、実は安倍政権のコピーとなっています。ここで言うスタッフとは、岸田首相を支える官僚のことです。安倍政権では経産省から来た今井尚哉首相秘書官(のちの補佐官)が安倍首相のブレーンとなり、安倍政権の政策を差配していたと言われていました。安倍首相は「今井君は頭がいいからね」といい、今井補佐官を全面的に信頼していたようです。そのため本来は安倍政権おいて政策を差配する立場の菅官房長官の役割が低下し、安倍政権末期には菅官房長官がやる気をなくしているように言われました。その後安倍首相が病気で退陣し、後任首相には菅官房長官が就任しましたが、菅首相は今井補佐官一派を一掃しました。今井補佐官一派には安倍政権が打ち出した「1億総活躍推進室」の次長(実務上の責任者)を務めた新原浩朗内閣府統括政策官がいます。新原氏の存在は、新原氏が「一億総活躍国民会議」の委員を務めた女優の菊池桃子さんと結婚したことから有名になりました。菅政権になったら、安倍政権で菅氏と官邸の権力を争った今井氏と共に新原氏も官邸を去りました(ただし経産省で産業政策局長に就任しているので栄転の形をとっている)。菅首相は安倍政権の政策を継承すると言っていましたが、安倍首相が重用したスタッフは大きく入れ替えており、安倍政権色は払拭されていました。それがよく表れていたのが「成長戦略会議」です。これは菅官房長官の経済ブレーンと言われていた元ゴールドマンサックス証券調査部長のデービット・アトキンソン氏の提言を実現するために設けたものであり、アトキンソン氏が委員に就任した点に特徴があります。私もアトキンソン氏の著書は何冊か読みましたが、透徹な分析力の賜物であり、氏の提言を実施すれば日本再建に繋がる可能性が高いと思っていました。ただし菅首相はこの会議の委員に三浦瑠璃氏も指名しており、味噌を付けました。

このように菅政権では安倍政権のスタッフは一掃されていていたのですが、岸田政権ではまた復活しているのです。今井補佐官に変わって同じく経産省から今井氏と親しいと言われる嶋田隆元事務次官が首相政務秘書官に就任しています。更に今井秘書官の流れを感じさせるのは新原氏が内閣審議官として官邸スタッフに加わっていることです。審議官は次官クラスですから、首相スタッフとしては島田秘書官(元事務次官)に次ぐ権力者となります。新原氏はその後岸田政権の看板政策である「新しい資本主義実現本部」事務局長代理に就任しています。「新しい資本主義」と言う概念は岸田政権が誕生した際に新原氏が木原官房長官に提案したものと言われており(文書がある)、菅政権の成長戦略会議に代わるものです。提案には成長戦略会議の委員であるアトキンソン氏と三浦瑠璃氏は外す必要があると述べられているようです。新原氏にとってアトキンソン氏は、自分を追い出した人物と映っていたようです。その通りで、新原氏とアトキンソン氏の政策は、マルクス経済学と近代経済学くらい違うと思われます。新原氏の政策を見ると安倍政権時には「一億総活躍」であり、岸田政権では「新しい資本主義」です。まるで社会主義国家における政策のようです。この政策では計数目標が立てづらく評価のしようがありません。一方アトキンソン氏の政策は、最低賃金を現状の800円台から欧米並み(1000円以上)に引き上げることやGDPに占める割合を現状の16%から韓国並み(42%)に引き上げることなど計数目標が明確です。新原氏の政策を採用したら計数に現れるような成果は期待できず、アトキンソン氏の政策を採用したら計数に表れる成果が期待できます。

岸田首相がスタッフに今井一派を採用したのは、安倍元首相の協力を得るためだったと考えられますが、これが岸田政権が目に見える成果を上げられない原因になっています。