「受信料は負担金」でNHKは墓穴を掘った

NHKは17日、受信料制度をテーマとしたメディア関係者向けの説明会を実施したという報道です。説明会では、受信料の契約条件や割引の対象者など基本事項を紹介し、NHKの公共的価値への共感と理解を改めて伝えると同時に、受信料は“視聴の対価”ではなく組織運営のための“特殊な負担金”であると述べたということです。

この説明会は、NHK受信料についてマスコミが国民を誘導する指針を示し、マスコミ全体でNHK受信料制度維持に向けて取り組む決起集会だったように思われます。そのためこれを報じたこの記事はNHKの説明をそのまま載せており、批判的意見は全くありません。今後新聞やテレビもこのNHKの説明に沿った報道を行い、国民がNHK受信料に理解を示す方向に誘導していくことになります。

ここで注目すべきは、NHKが受信料は“視聴の対価”ではなく組織運営のための“特殊な負担金”であると述べたことです。これまでNHKはたくさんの人が視聴してることを前提に受信料は視聴の対価という考え方に基づいていたように思われます。しかしNHKを見ない人が増えた結果、これを理由に受信料を払わない人が増えてきたため、この考え方は不都合になってきていました。NHK受信料を徴収するにはテレビ受信機設置者と受信契約を結ぶことが必要であることを考えれば、受信料はNHK視聴の対価という考え方が自然な解釈です。もし受信料が組織運営のための負担金だとすれば、受信機設置の事実があれば受信料が発生し、受信契約は必要ないことになります。受信機設置の事実はテレビ販売店からの届け出(法律で義務化する必要がある)で把握できるので、改めて受信契約を結ぶ必要はありません。放送法が受信契約を定めているということは、放送法にはやはり受信料は視聴の対価という考え方があると言うことになります。

受信料の主旨を放送法の自然な解釈を離れてNHKが勝手に代えられる点で放送法はいい加減な法律であると言えますが、NHKが受信料を負担金だと言い切ったことでNHKは墓穴を掘ったことになります。

なぜならば、受信料が負担金なら税金で徴収するのが一番合理的だと言うことになるからです。、そうすれば受信契約を結ばない、受信料を払わない人がいなくなりますし、徴収にかかる多大なコストも無くなります。NHKが税金による運営を嫌っているわけですが、その理由をNHKは税金だと公共放送として政治的中立性が守れないからとしています。しかし現在の制度でもNHKの予算には国会の承認が必要であり、政権与党の影響を強く受けています。またNHK会長は政権が指名しており、政治任命と同じです。税金で運営されるとNHK予算案の承認ではなく予算案全体の承認となり、政権与党の影響は弱まります。それにNHK予算は目的税として確保される(ガソリン税などが道路予算にしか使えないのと同じ)ので、政権の気に食わない内容の放送をしたからと言って予算を減らされることはありません。このように税金の方が受信料よりも政権の影響を受けにくいと言えます。NHKが税金による運営が嫌なのは、税金なら不景気で税収が減るとNHK負担金目的の税も減らせと言う議論になる可能性が高いからです。税収は景気の影響を受けますが、今のNHK受信料なら景気の影響を受けず、世の中どんなに不景気でも変わらない収入を確保できます。NHKが受信料制度に拘る最大の理由はこれです。

一方自民党が受信料制度を支持しているのは、受信料制度の方が税金よりもNHKに大きな影響を及ぼせるからです。自民党に不利な放送をしたら予算案を承認なかったらよい訳で、これは組織にとって一番効きます。このようにNHK受信料制度は景気に影響されずに収入を確保したいNHKと、NHKに政権に都合の良いニュースを多数流させることによって国民の支持を高めたい自民党の利害が一致して維持されているのです。

今回NHKが受信料は視聴の対価ではなく負担金だと言ったことで、今後負担金額の妥当性と税金で徴収すればよいと言う議論を呼び覚ますことになります。ある調査によると1週間に(1日ではない)NHKを5分以上見る人の割合は54.7%となっており、NHKは殆ど見られなくなっています。これで月1,950円の負担金は高過ぎると思うのは当然です。昨年来物価が高騰し生活が苦しくなっているため、NHK受信料の負担感は益々大きくなっています。そのため受信料が負担金なら税金で徴収すべきという意見が出てくるのは当然であり、これを押し留めるのは難しいと思われます。更にはスクランブル化という議論が待っています。

今回の説明会でも名前が出た英国BBC受信料は2028年3月までに廃止される計画です(この事実については説明会で触れていない)。これは2020年の英国総選挙で劣勢だった保守党が形成を逆転するために持ち出した公約であり、この公約により保守党は圧勝し立ち往生していたEU離脱が実現しました。それ程BBC受信料は英国民の憎悪の対象だったということです。BBC受信料廃止の理由として当時のジョンソン首相は「メディアが多様化した現在BBCだけ受信料で賄う理由はなく、また受信料は事実上税金となっており、視聴する分だけを支払う課金制(スクランブル放送化)が望ましい」と述べました。日本でスクランブル化が主張されている理由と同じであることが分かります。BBC受信料廃止の計画はこのような経緯で出てきたものであり、間違いなく実施されると思われます。それにこれを受けて昨年3月フランス大統領選挙でマクロン候補がフランス公共放送受信料の廃止を公約に掲げ、当選後の5月に公約通り受信料を廃止しました(税金で手当て)。これもBBC受信料の廃止を後押しします。

これらの事実を考えるとNHK受信料が負担金なら英国やフランスと同様受信料として徴収するのは困難であり、税金に移行するか、スクランブル化するしかなくなります。今回NHKが受信料を負担金としたことは、自ら墓穴を掘ったことになります。