熊本県の第三者委員会委員長には林前検事総長を

熊本県の旅行支援事業をめぐり旅行会社のTKUヒューマンによる助成金の不適切な受給や、県幹部による見逃しの指示があったなどとして9月7日に関係者が報道機関に公益通報者保護法に基づく外部通報を行いましたが、9月20日の県議会代表質問でこの問題について問われた蒲島知事は、「第三者の調査委員会は、外部の弁護士で構成する予定で、現在人選を急いでいる」「第三者委には今回の件の関係者のヒアリングといった調査をしてもらう」「県が実施する調査の手法や結果にも法的な妥当性や的確性の確認を求める」と述べたという報道です。

不適切な助成金の受給が疑われているのはTKUヒューマンが販売した旅行商品約3,000件で県の助成額約2,000万円分になります。これについて通報者は「(タクシーチケット利用は同地点発着に限るという)受給要件を満たしていない。県幹部が担当課に見逃しを指示した」と訴えており、証拠として提出した音声データには、当時の政策審議監と担当課の課長が職員に対し、複数の上司から「もうよかろ」「ミリミリ(ミリ単位で)おまえらは詰めるのか」「県の決めようだろ」って言われた」ことを伝え、 職員の1人が「これまでの事業者への指導とは違う解釈だ。なかったことにしろという指示か」と尋ねると、政策審議監らが「うまくやれって」などと発言した様子が収録されているということです。

ヒューマンの不適切受給については今年の2月9日熊本日日新聞(熊日)が、助成対象外の商品(市電1日乗車券が含まれた旅行商品)が「少なくとも4,341件(助成額2,456万円)に上る」と報じました(これについては3月30日事務局の阪急交通社が肩代わり返済)。県の担当課は当初さらに不適切受給の疑いがあるとしてヒューマンの別の商品2,973件(同2,052万円)についても追跡調査をする方針だったようですが、本件のような事情により調査されない状態が続いていたようです。更にこの件では2023年1月にテレビ熊本の会長やTKUヒューマンの会長などが、支援事業の事務局JTBを通して県に「TKUの実名報道は避けてほしい。県がそのことを約束すれば助成金を自主返納する」と申し入れていたと熊日が報道しましたが、蒲島知事は「そういう事実は一切なかった」と否定しています(この件に関する情報公開文書は黒塗りが多く真偽確認できず)。

このように本件はいわくつきの事件であり、県庁幹部とTKU幹部が相当親しいことが伺え、場合によっては贈収賄事件に発展する可能性もあります。また蒲島知事がTKU側からの社名を出さないでほしいという依頼を強く否定していることから、蒲島知事は一連の疑惑の真相を知っていながら見逃した可能性があります。そうなると蒲島知事の責任も免れません。

従って本件について第三者委員会を設けて調査するのは当然なのですが、問題は第三者委員会のメンバー構成です。2020年3月22日投開票の熊本県知事選挙において、熊本市中央区の開票で投票した人数より確定した票数が109票も少ないと言う事態が発生し、その際熊本市の大西市長は第三者委員会を設けましたが、メンバーが大学教授(委員長)、地区住民代表、弁護士であり、実効性ある調査ができるメンバー構成ではありませんでした。これは最初から「調査したけど原因は分からなった」という結論を狙ったものでした。第三者委員会はこういう使われた方も多いのです。これと対照的なのが、2018年の熊本市議会議員の議員資格取り消しが問題となった熊本県の自治紛争処理委員会の委員構成です。これは刑事事件に類する案件ですから、刑事司法的調査・検証が求められます。そのため蒲島知事は元特捜部経験のある弁護士と検察官出身の弁護士を委員に任命して、前者が委員長を務めています。その結果この委員会は、熊本市議会が決定した当該市議の資格取り消しを無効という裁決を下しています。熊本市議会の決定を覆す裁決を下すことは、確固たる自信と信念がなければできず、蒲島知事の適格な委員人選が光りました。

この例からすると今回も蒲島知事は公正な第三者委員会を設けると思われますが、今回は第三者委員会の結論によっては知事の辞職にも繋がりかねず、蒲島知事が果たして公平なメンバー人選ができるか危惧されます。最近ジャニーズ事務所で創業者により継続的に性加害が行われていた問題が明らかになり、ジャニーズ事務所は特別調査委員会(第三者委員会)を設けましたが、委員長には林真琴前検事総長を任命しました。林委員長としては前検事総長の名誉が掛かっていますから依頼者のジャニーズ事務所に忖度することはあり得ません。案の定調査委員会の報告書は「性加害は有った」と認定し(加害者が死亡しているので認定は簡単ではない)、被害者に補償を求めると共に、同族会社からの脱却が必要と結論付けました。これは裁判よりも踏み込んだ結論でした。

この例を知ると蒲島知事が設ける第三者委員会の委員長には林真琴前検事総長がふさわしいと思われます。林前検事総長はジャニーズ事務所の第三者委員会の委員長を引き受けたのですから、全国的に名知事の評価が高い蒲島知事の依頼なら引き受ける可能性が高いと思われます。第三者委員会の結論によっては蒲島知事の辞職もあり得る今回の第三者委員会委員長はこれくらいの人でないと社会的納得は得られないと思われます。