メガバンクの最大の不良資産は日銀当座預金

メガバンクの決算が好調です。今年9月中間決算の純利益は、三菱UFJフィナンシャルグループ(FG)が過去最高の9,272億円で、三井住友FGも過去最高の5,264億円、みずほFGは昨年比24%増加の4,157億円となりました。これに伴い三井住友FGは通期の見通しをこれまでの8,200億円から9,200億円に、みずほFGはこれまでの6,100億円から6,400億円に上方修正しました。三菱UFJFGは上方修正こそしませんでしたが、計画を大幅に上回るのは確実です。この原因については、国内外で企業の資金需要が増加した、海外の金利が上昇したことによる貸し出し利ざやが改善した、円安により円換算の海外利益が増加したなどが挙げられていますが、特に円安の影響が大きいように思われます。これまでメガバンクは、国内の資金需要低迷と低金利による収益低下を補うため、海外での融資や投資を増やしてきており、これが円安もあって収益を押し上げているようです。今後国内金利も上昇に向かうと考えられますので、国内収益も増加すること間違いありません。この状況を見るとメガバンクは盤石なようにも見えますが、実はバランスシートに大きな不良資産を抱えています。それは日銀当座預金です。「え、日銀当座預金って最高の優良資産でしょ」と思われる方が多いと思いますが、よく考えるとそうでないことが分かります。

日銀の11月10日の営業毎旬報告を見ると、日銀は資産勘定に約595兆円の国債を計上しており、負債勘定にはこれとほぼ見合う日銀当座預金約547兆円を計上しています。ということは、国債の大部分(約92%)は日銀当座預金で購入されていることになります(日銀の総資産は約750兆円)。普通国債は日銀券で購入されていると考えますが、日銀券の発行残高は約120兆円であり、全然足りないことが分かります。また法律(財政法5条)上も日銀は国債を直接引き受けたり国に融資することは禁止されていることから、日銀券で国債を購入する形はとれません。そうなると国債を購入する原資は日銀当座預金しかないことになります。日銀当座預金の大部分は、日銀が金融機関、特に銀行から買い入れた国債の代金であり、この資金が国債と日銀当座預金を行き来していることになります。国の資金繰りをつけるためには、財政法5条の縛りからこうするしかないと思われます。国債残高が少なく流動性が高い(日銀が国債を市場で売却し残高が減ったり、逆に買い入れて膨らんだりを繰り返す)なら、日銀が国債の購入に日銀当座預金を充てるのは問題ない(流動資産を流動負債で購入している)のですが、今の実態は異なります。日本の国債残高は1,000兆円を超えており、GDP(約550兆円)の200%近くになっています。国際的には100%程度(国債残高がGDPに収まる)までが正常値と言われており、200%という数字は国債の半分は償還不可能であることを示しています。そうなると日銀当座預金が償還不可能な国債の購入に充てられていることになります。そうでなくとも流動性の高い資金であるはずの日銀当座預金が長期固定資金化していることになります。これは日銀当座預金を引き出そうとしても引き出せない(国債に代わっており返す現金がない)ことを意味しています。日銀当座預金は主に銀行の国債売却代金であり、銀行は国債を個人や法人の預金で購入していますが、この預金は毎年増加しています。したがって銀行に信用不安が発生し取り付け騒ぎが起きない限り、銀行は日銀当座預金を引き出す必要性がないものと考えられます。即ち、日銀当座預金の購入原資は事実上長期性資金ということができます。従って日銀「当座」預金という名称が間違いであり、日銀「長期」預金というのが実態に近いと考えられます。事実日銀当座預金の大部分には0.1%の金利が付与されており、これは長期性預金の金利に相当します。日銀当座預金は実質的には永久劣後債に近くなっています。

日銀当座預金をこのように見てくると、日銀当座預金は最終的には銀行に戻ってこない可能性があることが分かります。日本国債の半分は理論上償還不可能と考えられることの帰結です。三井住友FGの今中間決算の説明資料にグループ全体の日銀当座預金が59.5兆円あると書かれていました。この大部分は三井住友銀行のものだと思われますが、長い目で見たらこの半分は戻ってこないとも考えられます。

日銀当座預金は良好な決算の中メガバンクが抱える将来の懸念材料と言えます。これを上手くマネジメントしたメガバンクだけが生き残ることになります