菊陽町のTSMC狂奏曲は2027年で終了

熊本はTSMCの進出で一挙に人手不足になると言われています。しかしよく見てみるとTSMC熊本工場の雇用力はトヨタ九州(福岡県若宮市)のそれを遥かに下回っており、人手不足をもたらすものではないと思われます。2月24日に完成式を迎え今年中に生産を開始する予定のTSMC第一工場は約1,700人を雇用すると言われており、2027年末に生産開始予定の第二工場も同数の雇用と言われていますので、合計雇用数は約3,400人になります。これは熊本にある職場としては、お隣の大津町にあるホンダ熊本工場(従業員数約3,800人)の次の雇用数になります。現在の2位はTSMC熊本工場の隣に工場があるソニーセミコンダクタ九州(ソニー)で従業員数は約2,600人となっています。ソニーも第二工場を作るようですので同数くらいの従業員が増えることが予想されます。この結果TSMCとソニーで約8,000人の従業員となり、これらと取引がある関連企業の従業員を合わせると1万人くらいの雇用になります。そうなると半導体技術者や技能者は全国的に取り合いになると思われますが、特に影響を受けるのはルネサステクノロジ熊本工場や三菱電機熊本工場などの熊本の同じ業界ではないでしょうか。その他の業界は必要とする人材が違うことや半導体工場の労働形態を好まない人もいることから、それ程の影響はないと思われます。

TSMC熊本工場はTSMCが台湾の工場で作ったロジック半導体をソニーのイメージセンサ用として納入していたことから、納入不安を回避するためにソニー(と経産省=日本政府)の求めに応じてソニー熊本工場の隣に進出したものです。従って蒲島知事や熊本県関係者の努力により誘致が実現したものではありません。福岡県の若宮市などの工場を持つトヨタ九州は福岡県の麻生知事(当時)らの働きかけが功を奏したものであり、福岡県の功績と言えると思います。それにトヨタ九州の従業員は約10,600人(2023年4月1日)となっており、TSMCの2つの工場の3倍以上の雇用力を有します。日産九州(苅田町)約4,300人、ダイハツ久留米約500人の従業員となっており、雇用の面で言えば自動車工場の方が大きいと言えます。ただし自動車工場が北部九州に立地しているのは、本州への輸送や輸出な便利な港の関係と思われ、そうなると九州では福岡県となるように思われます。

このように見てくればTSMC狂奏曲は、農地1枚が3億円で売れたとか、これまで買い手がつかなかった空き地や山林が高値で売れたとか、建設業者の羽振りが良いとかほとんど不動産建設関係で奏でられており、それ以外はそうでもない状況です。冷静に考えればTSMCの第一および第二工場で雇用されるのは約3,400人程度であり、これに関連企業が加わってもせいぜい5,000人程度を考えられます。TSMCの社員は日本の大企業社員より多少高給のようですが、日常生活で大きな違いが出るほどの収入ではありません。ということはTSMCの工場の建設が終了し操業が始まれば、昔と何ら変わらない生活風景に戻ると言うことです。1980年代熊本がシリコンアイランドの中心と言われたとき、熊本は豊かだったでしょうか?そんなことは無かったと思います。当然で半導体工場の雇用は若い女性や男性が中心で、かれらの収入は大したことありませんでした。だから多くの県民の日常生活ではシリコンアイランドの中心であることの恩恵は感じられなかったと思われます。従って菊陽町の(熊本の)TSMC狂奏曲(パーティ)はTSMC第二工場建設が終わる2027年末で終了し、その後は何の変哲も無いそれまでの日常生活に戻ると考えた方がよさそうです。