大河原化工機相嶋顧問訴訟、犯罪者が裁判官とは

3月21日、化学機械メーカー大川原化工機(以下同社)の社長らの起訴が取り消された冤罪事件を巡り、勾留中の東京拘置所で適切な医療を受けられずにガンの発見が遅れたとして、被告の立場のまま病死した同社元顧問相島静夫氏の遺族が国に1,000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は請求を棄却したという報道です。

本件をおさらいすると、同社が製造した噴霧乾燥機の中国と韓国への輸出は、経済産業省令で禁止されている生物兵器製造に転用可能な機械の輸出に当たるとして、同社の大河原社長、島田取締役、相嶋顧問が2020年3月11日に逮捕され、同年3月30日に起訴されました。経済産業省令では輸出を禁止する機械の要件として、内部を「滅菌」または「殺菌」できることを挙げていますが、警視庁公安部は同社の噴霧乾燥機を空だきすれば、細菌類を死滅できるとして、これに該当するとしましたが、設計を担った同社の相嶋顧問や社員は、取り調べの中で繰り返し「機械内部には構造上温度が上がりにくい箇所があり、細菌を死滅させることはできない」と主張しました。これに対して警視庁公安部と検察は、相嶋顧問らの主張を検証する実験なども行わないまま、当初の見立てに従って起訴しましたが、その後裁判が始まる前の2021年7月30日有罪を立証はできないとして起訴を取り下げました。

逮捕された大河原社長、島田取締役、相嶋顧問らは主張を取り下げなかったため勾留され続け、保釈されたのは約11か月後の2021年2月5日となっています。この間相島顧問にはガンが見つかり、勾留執行停止中の身分で入院治療を行い、保釈後の2月7日死亡しています。

本件の国家賠償訴訟は、12月27日に東京地裁で判決が出され、警視庁および検察による強制捜査と起訴のプロセスを違法とし、原告が東京都と国に求めていた賠償金約5億5,600万円のうち約1億6,200万円を認めました。(その後原告および国とも控訴)

本件では約11か月に及ぶ勾留も問題となります。大河原社長らは逮捕後7度保釈を請求しましたが、検察官が証拠隠滅の恐れがあるとして反対し、裁判所は保釈を認めませんでした。特に悲惨なのは相嶋顧問で、勾留中に身体に異変をきたし、2020年9月には輸血を行ったため弁護団は緊急治療の必要性を理由に保釈を申請しましたが、やはり証拠隠滅の恐れを理由に認められませんでした。同年10月に拘置所内の医師が悪性腫瘍の疑いを指摘し大学病院を受診したところ胃ガンと診断されますが、大学病院では勾留執行停止中の患者の手術や入院はできない決まりでした。そのため弁護団は入院手術をするため保釈を申請しましたが、裁判所は証拠隠滅の恐れという検察官の主張を認め、保釈を認めませんでした。同年11月になって勾留執行停止中でも入院手術が可能な病院が見つかり、手術を受けることができました。そして2021年2月5日に8回目の保釈請求が認められたのですが、相嶋顧問は保釈の2日後に亡くなっています。

これに対して起こされた裁判が本件です。

遺族側は訴訟で「拘置所は適切な検査や早期の転院を怠った。適切な対応がなされていれば延命できた」と訴えました。これに対し、国側は相嶋さんの症状は軽度で精密検査を必要とする状態ではなかったと主張。血が混じった便が確認された後には内視鏡検査を実施していることなどから「対応に問題はない」と反論していました。

裁判所が相嶋顧問の遺族らの訴えを認めなかったのは予想通りと言えます。裁判所は相嶋顧問の保釈申請を7度も却下しており、本件については当事者の立場です。当事者が自分に責任ありという判決を下すわけがありません。本件は裁判所以外の場で審議されるべき事件なのです。

本件に関するヤフコメは珍しく検察、警察および裁判官(およびマスコミ)批判で一致しています。この事件と裁判から、裁判官は検察や警察と同じ公安職員であることが見えてきました。