蒲島知事「後悔は全くない」って嘘でしょう!

4月6日の読売新聞に、蒲島知事の退任前最後の記者会見の記事が出ていました。それによると “県政史上最長の4期16年で災害対応ができ、「後悔は全くない。県民のためにも良かったと思う」と語った。” となっています。

私はこの記事を見て「嘘でしょう!」と思いました。それは2008年9月の蒲島知事の川辺川ダム建設計画中止判断により、2020年7月14日球磨川大洪水が起き、人吉球磨地方に多くの死者と損害をもたらしているからです。球磨川は過去何回も氾濫し、流域で多くの洪水被害を引き起こしてきました。さらに異常気象の進展により、この可能性は高まっていました。そんな中2008年3月に知事に就任した蒲島知事は半年後の9月には川辺川建設計画中止を決断しています。知事就任前から川辺川ダム建設計画については就任後半年以内に結論を出すと言っていたようですから、就任前から中止の意向を持っていたと考えられます。蒲島知事は意思決定に当たって手続きと民意を重視しており、本件については有識者会議を設置し検討を進めましたが、会議の報告書では、「地球温暖化を踏まえ、抜本的にはダムによる治水対策が有力な選択肢」としつつも、現行の計画の見直しの必要性に言及するなど、委員会として賛否は明確にしませんでした。この結果蒲島知事の判断に委ねられることになったのですが、蒲島知事は「全国一律の価値基準でなく、地域独自の価値観を尊重することが幸福量の増大につながる」「過去の民意はダムによる治水を望んだが、現在の民意は球磨川を守っていくこと選択していると思う」として、現行計画を白紙撤回することを求め、球磨川河川整備基本方針への不同意の方針を表明ました。この前に相良村の徳田村長が「現状のダム建設には反対」とする姿勢を明らかにしており、人吉市の田中市長も「ダムは自然環境悪化につながりかねず、市民の多くが否定的だ」として反対の意思表明を行ったことを、民意の根拠としたようです。これらの首長の意向表明は、蒲島知事の意向を受けたものであり、蒲島県政でよく行われた民意偽装工作のように思われます。

しかし知事の最大の責務は住民の生命財産を守ることであり、ダムの是非は、民意ではなく科学的知見に基づいて判断される必要があります。そのため議会ではなく知事に判断権が委ねられているのです。国土交通省が膨大なデータに基づき川辺川ダムがないと球磨川洪水による被害は防げないと判断したダム建設を、何らの科学的根拠も示さず中止とした蒲島知事の判断には、重大な瑕疵があったと思われます。蒲島知事も洪水後そう考えたから川辺川ダム建設計画を再開しています。従って球磨川大洪水で死亡した方の家族が業務上過失致死傷罪で蒲島知事を告訴するか、損害を被った住民が熊本県を被告(意思決定の責任は県に帰属する)として損害賠償訴訟を提起したら認められる可能性が相当あります。

2011年3月の福島原発事故では、社内で巨大な地震津波の危険性が指摘されていたにも関わらず対策を怠ったとして、経営陣が業務上過失致死傷罪で訴えられました。この裁判では、地震による大規模な津波を経営陣が現実的に起こり得る問題して認識するのは不可能だったとして無罪となりましたが、球磨川大洪水は現実的に起こり得る問題として認識しない方がおかしいと考えられます。人吉球磨地方の住民は熊本の中でも善良な人が多く、告訴や訴訟は提起されていませんが、他所の土地なら蒲島知事は今頃被告人席にいてもおかしくありません。そう考えると蒲島知事の退任前最後の記者会見における「後悔は全くない」という言葉は、ちょっと信じられません。最大の後悔、または唯一の後悔として、川辺川ダム建設計画中止を判断し人吉球磨地方の方々に大きな悲しみと多大な損害を与えたことを挙げるべきだったと思われます。