熊本大学半導体学部は早慶並みに難関化する

九州大学(九大)は4月2日TSMCと包括連携の覚書を4月1日付で締結したと発表しました。ヤフーニュースのこの記事欄のコメントに今年4月から学生が入学する熊本大学の半導体学部はどうなるのというものが多数みられましたが、全く影響ありません。九大が締結した覚書の発表内容を見ると、TSMCの技術者や研究者による大学院での講義やTSMCは九大の学生がインターンシップに参加する機会を提供するとなっており、TSMCが一方的に九大に協力する片務的契約になっています。だからTSMCは何の発表もしていません。これは、九大は昨年6月大学院に研究組織「価値創造型半導体人材育成センター」を立ち上げたばかりであり、TSMCに提供できるような研究リソースが全くないためと考えられます。本件は九大が世界一の半導体ファンドリ会社であるTSMCの力を借りて研究組織を早急に立ち上げることが狙いです。九大の研究分野は半導体製造の前工程と思われ、熊本大学は後工程が中心であることから、研究分野は重なりません。

4月6日に上記内容のブログを書き終えていたら、4月8日熊本大学とTSMCは半導体分野の研究と人材育成で連携する内容の覚書(MOU)を締結したと発表しました。九大との連携は九大からの発表のみでしたが、熊本大学との連携は熊本大学小川学長とTSMCの張孟凡・技術研究ディレクター同席での発表であり、TSMCの本気度が伝わってきます。

内容的には、TSMCが研究者や技術者を派遣して講義を行う、インターンシップの機会を提供することは、九大と同じですが、熊本大学と共同研究やワークショップを実施するなどより双務的関係になっています。TSMC本体に加え、熊本工場の運営会社JASM、最先端の設計技術を開発するTSMCデザインテクノロジージャパン(横浜市)、3次元パッケージング技術を開発するTSMCジャパン3DIC研究開発センター(茨城県つくば市)の国内3子会社も枠組みに加わるということですから、TSMCが熊本大学の研究体制を評価していることが分かります。

熊本大学は産業技術総合研究所から青柳昌宏卓越教授を招聘し、3次元(3D)大規模集積回路(LSI)の積層実装技術を研究の中心に据えていますが、この技術はTSMCも開発に力を入れていると言われており、TSMCにとって魅力的な存在になっていると思われます。

今年中に操業を始める予定の第1工場および2027年末操業予定の第2工場とも前工程の工場であり、後工程は台湾で行うと言われています。第1工場および第2工場とも顧客は日本企業(ソニー、トヨタなど)と思われることから、後工程も日本でやる方が合理的であり、TSMCは近い将来後工程の工場を日本に、それも熊本に作ることを計画していると思われます。後工程なら熊本の企業も参入できる可能性が大きくなりますので、熊本にとって大変メリットがあります。

尚TSMCは修士課程の学生に奨学金を提供する計画とのことですが、これでは優秀な学生をTSMCにかっさらわれますので、奨学金提供の話は熊本に工場がある日本の半導体企業(ソニー、東京エレクトロン、ルネサス、三菱電機など)からも出てくると思われます。そうなると奨学金を提供しても良い全社で基金を作り3年生以上全員に給付型奨学金を支給することも考えられます(1,2年生には不要)。これは3年次に就職先企業を決め、その会社から奨学金を出す形でも実現可能です。これが出来上がれば優秀な学生が集まり、2,3年以内に半導体デバイス工学課程(半導体学部)の一般入試(15名)の偏差値は60を超え、将来的には早慶並みの難易度になると予想されます(入試は3教科3科目になると想定していることから比較対象は早慶)。そうなると学力低下の進む熊本の高校生は一般入試では合格できなくなりそうです。