公益通報で明らかになったのは熊本県職員の杜撰な仕事ぶり

4月11日熊本県の旅行助成事業「くまもと再発見の旅」で熊本県庁幹部から不正(報告書では不適切と表現)受給見逃しの指示があったなどとして公益通報された事案について、熊本県が設置した第三者委員会の調査報告書には、公益通報者が提出した所属部署内での録音会話が文字で再現(テープ起こし)されており、熊本県職員の仕事レベルが分かる資料となります。

本件公益通報は本件助成事業の担当課(観光振興課)に所属する職員によりなされたものと考えられますが、公益通報の目的は不正見逃しの防止であるのに、第三者委員会では不正行為がそもそも存在しなかった(従って不正見逃しの指示もなかった)と判断しています。それは担当課が不正行為と認定した基準が曖昧で、かつ旅行社に周知さていなかったこと、助成金を支出する国では助成金の趣旨はコロナ禍で収入が減少した旅行関連従事者の救済であることから、できるだけ緩やかに制度設計するよう要請しているにも関わらず、条件は国のGoToトラベル準拠とするなど担当課が助成金制度の趣旨を逸脱していたことが大きな理由です。

本件テープ起こし1は2022年2月10日の担当課内協議での会話ですが、この前に数名の職員(担当課長?F、その上の部長?D、担当課のI、関係幹部E)が幹部A(副知事)にTKUヒューマン(TKU)との間で助成金返還を巡りトラブルになっている件についてレクチャ(レク)を行いました。この担当課内の会合は、レクに参加しなかった担当課のHにレクの様子とAからの指示を知らせ、対応を協議するためのものでした。協議はFがAの発言と指示を伝え、Hが反発する内容になっています。それにEが口を挟みAの指示をEの理解(TKUが反発している約2,000万円分については調査しなくてよい)の方向に持っていこうとしているように思えます。この協議ではTKUの約2,000万円分につき条件に違反するタクシー利用(市電終端から飲食店までタクシーを使ったもの)がどれだけあるか調査することになりました。

この協議のあと幹部EがHを部屋に呼んで話した内容がテープ起こし2です。この会話の内容が公益通報者が県庁幹部がTKUの不正を見逃すよう指示したと主張する根拠となったと考えられますが、Eは約2,000万円については調査するのは良いが結果はせいぜい10%(200万円)程度になるようして、TKUと話を付けようとHを説得しているように聞こえます。それに対してHは、マスコミが利用者に当ったら真実がバレ、立場が危なくなると反対します。Eの説得は失敗した印象ですが、EはHは分かってくれたと思っていた感じでもあります。

このEの発言について報告書では、EがTKUと話し合っていたわけではなく、波風を立てず解決することを意図したものだったというEの説明を採用しながらも、表現が適切でなくもっと考えて発言すべきだったと述べています。

報告書を読むと担当課職員の杜撰な仕事ぶりが浮かび上がります。本件助成事業の趣旨は、コロナ禍によってお金が回らなくなった旅行業者、旅客運送業者、飲食店などの救済であることを考えれば、助成の条件を緩くするのが当然であり、その前に行われていた国のGoToトラベルの条件を準用することは考えられません。実際担当課はGoToトラベルでは認められていないタクシー、レンタカー、市電、路線バスの利用を認めていることから、本件助成金の趣旨を全く理解していなかったわけではないと思われます。たぶん担当課が独自に設定した条件以外の条件が問題になったときには、GoToトラベルの条件によるという考えだったと思われますが、いつの間は本件の条件はGoToトラベルの条件に違反しないことが前提になってしまっているように思われます。

これを見ると県庁職員の技能不足が深刻なように思われます。県庁の課長と言えば50歳前後だと思われますし、ここで登場する担当課の職員は40代、30代と推測されます。民間大手企業では使いものにならないレベルです。この状況は担当課に旅行業界の実務に精通する職員がいないことで生じており、解決のためには課長や部長を公募で旅行業界から採用するしかないと思われます。