公益通報制度の見直しが必要かも

4月11日熊本県の旅行助成事業「くまもと再発見の旅」で熊本県庁幹部から不正(報告書では不適切と表現)受給見逃しの指示がったなどとして公益通報された事案について、熊本県が設置した第三者委員会の調査報告書が公表されました。

結論は、熊本県が不正とした受給がそもそも不正とは言えないとし、その結果不正見逃し指示もなかったということでした。私も報告書を読みましたが、妥当なものでした。

この報告書を読むと公益通報の原因となった事実(間に入った幹部の発言)が一部だけ切り取られたものであり、全体として見れば、公益通報には値しなかったように思えます。公益通報者が熊本県庁幹部が不正の見逃しを指示したという実体もなかったし、そもそも不正が存在しなかったようです。公益通報者が不正があった証拠とした県庁幹部の発言(録音済み)は、上層幹部の発言を聞いた別の幹部が上層幹部の意向を深読みし、自ら解決に動くために考えたシナリオを述べたものでした。たしかにこの話を聞いた職員が上層幹部から不正を見逃すようにとの指示があったと考えておかしくないのですが、その前の担当課内での協議で課長などの発言から上層幹部が不正を見逃せとは言っていない(こちらの助成金条件設定に問題がなかった検討せよと指示した)ことは明確になっており、この別の幹部の発言で上層幹部が不正見逃しを指示したと確信するのは短絡的と言えます。別の幹部の発言は職員を誤解させる危ない言い方であり、むしろ普通の人なら警戒するところです。この公益通報者が県庁内は不正見逃しの方向にあると感じ、これを阻止する方法を考えている中で、不正見逃しを上層幹部が指示した証拠としてこの話に飛び付いた感じがします。

そんな中でそもそも不正があったことが疑問視され、第三者委員会は不正の存在そのものを否定しました。旅行社が不正に請求したと認定するには、助成を受ける条件に違反していることが必要ですが、よく見ていくとその条件を明記した書類が担当課内になく、かつ課員の理解もバラバラでした。また旅行社に条件を通知した書面もなく、説明会も開催されていませんでした。不正が問題になったのは、助成金支払い後にマスコミの記者から助成金対象商品の価格が高すぎる(助成金が反映されていない?)との指摘を受けてからです。それまでは、助成金は請求書と添付書類(最終旅行確認書など)を確認して支給することになっており、実績を確認することは予定されていませんでしたが、これを受け実績を確認したら、担当課が想定していない旅行商品が出てきたようです。これは移動手段が周遊券のみのものやタクシー利用に問題があるものでした。しかしこれは助成金の趣旨からすると問題になるものではなく、第三者員会は担当課が作った(考えていた)条件に問題があると判断しました。確かにこれは第三者委員会の判断に分があると思われます。

そうなると公益通報者の理解は短絡的であり、公益通報そのものに問題があったことになります。公益通報制度上はこのようなケースが出てくることは想定済みですが、今回のケースは余りにもお粗末なように思われます。それに担当者が自分の意見を通すために公益通報制度を利用したとも思えます。

公益通報を大きく報道したのは熊本日日新聞(熊日)ですが、熊日は1月から複数回本件助成金を巡る不正を報じており、熊日の記者に担当課の職員から不正の可能性がある件数や金額の情報が提供されています。これは本来外部秘の情報であり、業務違反行為と言えます。また不正調査の原因となった情報も熊日の記者から担当課の担当者にもたらされており、担当者と熊日の記者が親密な関係にあったことが伺えます。これが今回の公益通報が安直に行われた原因の1つになっているように思われます(熊日記者が担当者に公益通報を勧めた疑いも浮上)。

たぶん今回の報告書を受け熊日でも公益通報の取り扱いに問題がなかったかどうか調査されることになると思われますが、公益通報については玉石混交であることから、一旦第三者機関で受け付け、第三者機関が十分公益通報に値すると判断したものだけ公益通報としてマスコミが扱うのがよいように思われます。公益通報されたものをすべて真正な公益通報と扱えば、関係者に取り返しのつかない損害を与えると思われます。