スタートアップ投資5年後10兆円はお馬鹿さんの発想

政府は11月24日、スタートアップ企業の育成に向けた5カ年計画の原案をまとめたという報道です。スタートアップへの年間投資額を現在の約8,000億円から5年後の2027年度に10倍超の10兆円規模に引き上げる目標を掲げています。同時に評価額1,000億円以上の未上場企業を意味するユニコーンを、現在の6社から5年後は100社に増やすことを目指すということです。

これは一言で言うとお馬鹿さんの発想です。100%実現しません。先ずそんな投資先がありません。スタートアップの定義が不明ですが、設立後5年以内の企業でも現在8,000億円の投資があるかも疑問です。10年以内ならあるかも知れません。それを1兆円に増やすのも大変です。それは起業数が少ないし、ましてや投資できるような有望企業は更に少ないからです。それも投資の回収手段が株式上場(IPO)となると金の卵を探すようなもので、年に数社しか現れません。これが分かっていれば5年後10兆円なんて金額は出てきません。

では10兆円の投資が出来ないかというとそんなことはありません。国の資金10兆円を民間ベンチャーキャピタル(VC)に与えれば、民間VCは10兆円使い切ります。1社当たりの投資額が大きくする、中には1社に1兆円以上突っ込むなど国家プロジェクト的な企業を組成し、投資することになります。11月11日に先端半導体製造を目指すRAPIDUSが設立されましたが、この会社は10兆円くらいの投資が必要と言われており、5年後10兆円はREPIDUSに投資することで達成可能です。

この政府の計画は、経団連が3月に発表したスタートアップ増加に対する提言を岸田政権が丸飲みしたものです。経団連の提言では、現在10社程度のユニコーンを2027年までに100社に増やす目標を掲げて、これを達成するために関連政策実施の司令塔となる「スタートアップ庁」の設立を盛り込んでいます。岸田政権ではスタートアップ担当大臣を置いていますから、その先にはスタートアップ庁の設立があると思われます。

しかし経団連の提言では、目標設定が間違っています。5年間にユニコーンを100社誕生させるなど不可能です。ユニコーンと言う概念は、投資家の評価の概念であり、企業実体を評価する概念ではありません。投資家は企業を評価するに際し、企業実体はたいしたことなくても株式市場で人気化するとみれば高い評価を付けますし、企業実体は素晴らしくても株式市場で人気化しないとみれば高い評価を付けません。前者の例はソフトバンクGが投資したWeWorkやOYOなどです。この二つは、実体は単なるオフィス賃貸業やホテルチェーンであり、素直に評価すれば高い評価にはなりません。それをソフトバングGがIT関連企業のように吹聴し、自ら高い評価を付け、ユニコーンに仕上げました。現在世界でユニコーンと言われる企業は、このように投資家が自らの利益のために評価を膨らませた企業が多いのです。これは経団連のような実業家団体が採用する評価基準ではありません。このことはソフトバンクGのビジョンファンドが失敗に終わっていることからも分かると思います。経団連でこの政策を中心となってまとめたDeNAの南場会長は、この仕組みから利益を得られた方なので、これを持ち出すのは分かりますが、一方現役の経営者でもありますから、このユニコーン主義の危うさはお分かりだと思います。このユニコーン100社計画は、南場会長が責任を負える計画ではないと思います。

普通に考えれば岸田政権のこの計画はお馬鹿さんの発想ですが、RUPIDUSへの投資を考えているとすれば巧妙と言えます。